運用資産$30Bの欧米大手PEが予測する、ヘルスケア×AI【NEXTBLUEニュースレター5月号】

皆様こんにちは。日米欧の女性のウェルビーイング領域に投資をするベンチャーキャピタル、NEXTBLUEの大嶋です。

米国市場で急速に進むヘルスケア×AIの業界再編。今月の注目ニュースでは、運用資産$30Bの欧米大手PE幹部が語るヘルスケアx AIの現状と予測をまとめたポッドキャストを特集しています。内容の深掘りだけではなく、NEXTBLUE独自の視点として、女性の健康領域、日本市場への示唆も記載しています。

また、日本市場において、更年期ケアに特化したデジタルヘルスプラットフォームを展開するYStoryへの投資についても詳しくご紹介しています。


NEXTBLUEは、東京を拠点に更年期ケアのデジタルヘルスプラットフォームを展開する株式会社YStoryのプレシリーズAラウンドに参加しました。本ラウンドは京都大学イノベーションキャピタルをリードに、あすか製薬CVC、京都キャピタルパートナーズ、栖峰投資ワークス、既存投資家ANRIと共に実施されています。

YStoryは、個人向け更年期セルフケアアプリJoyHerを運営。累計ダウンロード数7万人超の国内有数の女性健康データ基盤を持ち、京都大学大学院医学研究科との共同研究によるランダム化比較試験(RCT)を現在進めています。先行研究では、アプリ使用期間中に更年期症状スコア(SMI)の有意な改善が確認されており、ユーザーの約8割が1〜3か月の利用でスコア改善を実感しています。今回の調達を機に、企業・健康保険組合向けの法人サービスJoyHer企業版の展開も本格化。更年期症状の定量化・改善効果の可視化から、組織文化変革までを一体で支援するモデルとして立ち上がっています。詳細はこちら

▍NEXTBLUEの投資視点

欧米ではMidi Healthが示したように、更年期ケアを入口に代謝疾患・認知機能・骨粗鬆症まで縦断的にカバーする「中年期の健康包括ケアモデル」が急速にスケールしています。日本市場ではこの領域への参入プレイヤーはまだ限られており、YStoryは臨床エビデンス・ユーザーデータ・企業向けチャネルという三位一体の基盤を持つ希有な存在です。

特に注目しているのが「エビデンスファースト」の姿勢です。更年期領域は主観症状の比重が高く、「効果があるかどうか分からない」という消費者・企業側の懸念を乗り越えるには、RCTによる臨床的裏付けが最も強力な差別化要因になります。京都大学との共同研究を基盤とするYStoryのアプローチは、toC・toBの両面で信頼を構築するうえで非常に有効だと見ています。更年期 × Longevityが日本でも次のフロンティアとして立ち上がりつつある今、YStoryの成長を支援してまいります。


YStoryは6月25日(木)12:00〜13:00に無料ウェビナー「更年期支援を『制度』で終わらせないマネジメントとは〜人的資本経営時代に求められる実効性ある支援体制を考える」を開催します。産業医科大学の立石清一郎教授を招き、更年期支援を福利厚生の制度整備にとどまらず、実効性ある組織支援としてどう実装するかを議論します。参加無料、申込締切は6月24日。詳細・参加申込はこちら


▍概要

$30Bを運用するニューヨーク・ロンドン拠点のプライベートエクイティ、TowerBrook Capital PartnersのAdvisors部門プレジデントEric Larsen氏は、過去1年のヘルスケアAI導入を「第一章:インフレ的フェーズ」と総括します。AIは主に診療報酬コーディングの最適化やバックオフィス業務の効率化に活用されてきましたが、「AIコスト+人件費」という二重構造が定着した結果、医療費は削減されるどころか上昇しました。

しかし同氏は「第二章はデフレ的になる」と断言します。根拠となるのが「機能的検証可能性(Functional Verifiability)」の概念です。数学・コーディング・正誤判定が可能な業務は自動化が可能であり、収益サイクル管理(RCM)などはすでにその恩恵を受けています。次のフェーズでは、保険者と医療機関が互いにAIエージェントを対峙させる「ボット対ボット」の構図へと移行し、バックオフィスコストの大半が削減対象になるとLarsen氏は見ます。

臨床AIについては「年間37.7万人が医療過誤で死亡する現状を踏まえれば、臨床AIを普及させないことこそ倫理的失敗だ」と主張します。普及の最大の障壁は技術ではなく、AIによる診断・治療判断が誤った場合に「誰が責任を負うか」が法的に確立されていないことだと指摘。Digital Diagnostics社が糖尿病性網膜症の自律型AI診断システムで初のFDA承認を取得し、製造物責任を自社で引き受けたモデルを先例として挙げ、「確信を持って臨床AIに参入し、責任ごと引き受けた者が勝つ」と述べています。

また、臨床AI普及における米中格差にも強い危機感を示します。AIへの楽観的見方は中国で約80%に対し米国では30%未満。米国は「法律家社会」として実装よりプロセスを優先する構造を持ち、89万5千件にのぼる連邦・州・市区町村レベルの法規制が臨床AIの均一な展開を阻んでいます。中国・湾岸諸国で臨床AIが先行普及すれば、より大規模な患者データが蓄積され、米国が技術を「逆輸入」せざるを得ない状況になると警告しています。

▍NEXTBLUEの分析

今回のポッドキャストは、「臨床AIはいつか来る未来」ではなく「すでに進行中の業界再編」として語られている点が印象的です。特に、臨床AI普及の障壁として語られた「責任の壁」と、米中間の普及速度格差という2つの論点は示唆に富む内容でした。今回の内容を踏まえ、女性の健康領域、日本市場ではどう捉えるかについて考えます。

①欧米における女性の健康領域への影響

今回のポッドキャストでは、女性の健康への言及は特にありませんでしたが、Larsen氏が主張する「機能的検証可能性(Functional Verifiability)」の観点から、自動化が早期に及ぶ可能性が高い領域を整理できます。

ホルモン値の解釈・不妊治療のプロトコル選択・妊婦健診のリスクトリアージなど、正誤を客観的に検証しやすい業務は、相対的に早い段階で自動化の射程に入ります。一方、更年期症状のような主観性が高く個人差の大きい領域や、産後うつのような心理社会的複雑性を伴うケアは、人間との協働が当面の前提になるでしょう。

「責任の壁」については、女性の健康領域が特有の困難を抱えています。歴史的に女性は臨床試験から過少代表されてきたため、既存の医療AIモデルの多くは男性データを基準に構築されています。これはAIの判断精度そのものへの不確実性を高め、責任引き受けのコストを押し上げる要因になります。逆に言えば、女性特化の高品質データセットを構築し、性差を適切に組み込んだモデルを開発するスタートアップは、汎用AIとの明確な差別化が可能であり、責任引き受けに踏み込める確信の根拠にもなります。

②日本市場への示唆

日本市場は、今回の対談が描く米国の構造問題を、より先鋭化した形で抱えています。

日本では、厚生労働省が「AIはあくまで補助ツール、責任は医師」という立場を明確化しており、Digital Diagnostics型の「AI企業が製品責任ごと引き受ける」モデルとは構造的に相容れない部分があります。一方で、国民皆保険制度のもとで蓄積されたNDB(ナショナルデータベース)の網羅性・均質性は世界的にも希少な資産です。

女性の健康に関しては、乳がん検診・子宮頸がん検診の制度的枠組みは整っているものの受診率は国際比較で依然低水準にあり(乳がん約47%、子宮頸がん約43%)、「制度はある、しかしデータが足りない」という構造は女性向け臨床AI開発の固有のボトルネックになりえます。逆に言えば、受診率向上とデータ蓄積を同時に実現できるデジタルヘルスのアプローチには、社会的インパクトとビジネス価値の両面で大きな余地があります。

Larsen氏が「勝者は最も速く(臨床)AIを拡散させた者だ」と述べたように、日本市場における問いはすでに「いつ臨床AIに参入するか」ではなく、「どのように責任分担を設計し、拡散の速度を上げるか」に移りつつあります。


本記事は、NEXTBLUEが運営する Femtech Global Insights の配信内容の一例です。

国内唯一の海外フェムテック/ヘルスケア特化プラットフォームとして、週3〜4本の海外ニュースを、投資家視点の解説コメント付きでお届けしています。


【投資先ニュース】

🇺🇸 Parents.com | 有害なグループチャットから子どもを守る

Sage Havenが米大手育児メディアに特集掲載

子ども向けの安全なメッセージ・通話アプリを開発する米Sage Havenが、米国大手子育てメディアParents.comに特集記事として掲載されました。

記事は実際に11歳の娘にアプリを試用したライターによる体験レポート形式で構成されています。既存のオンライン見守りツールはスクリーンタイムの制限やコンテンツフィルタリングには対応できていても、グループチャット内で実際に何が起きているかには無力である点を問題提起。Sage Havenは有害なコンテンツを「届いた後に報告する」のではなく「届く前にブロックする」設計で、AIが送信前に内容を判定し、問題があれば子どもに優しく再考を促します。保護者には即座にアラートが届き、テキストだけでなくリンク・動画・画像もすべてモデレーション対象です。

また、週次レポートでは子どもが友人をかばったり仲間外れを防いだりといった思いやりある行動もハイライトされるなど、単なる監視ツールにとどまらず子どもが自律的に責任ある言動を学ぶプラットフォームとして機能する点も高く評価されています。Sage Havenへの投資報告記事はこちら

🇺🇸 Anise Health、アジア系アメリカ人コミュニティのメンタルヘルスイベントに登壇

Anise Health イベント

アジア系アメリカ人特化型メンタルヘルスプラットフォームのAnise Healthが、サンフランシスコで開催されたアジア系アメリカ人xメンタルヘルス関連のイベントに登壇しました。

本イベントは、アジア系コミュニティにおける成功のプレッシャーとメンタルヘルスの関係をテーマに、燃え尽き症候群、神経多様性、メンタルヘルスへのスティグマといった課題を取り上げたもの。Anise Health創業当初からカウンセラーとして同社を支えるNaomi Yuが登壇し、アジア系コミュニティが真にウェルビーイングを実現するための構造的変革について議論しました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今後も、女性の健康・ヘルスケアイノベーションの欧米最前線をお届けしてまいります。

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