自宅でホルモンを測る時代へ:Eli Healthのコルチゾール検査レビュー

唾液からホルモンを継続測定する自宅検査キットを開発するカナダベースのスタートアップ、Eli Health。北米で2025年に正式ローンチしたコルチゾール検査を、実際に試してみました。

※NEXTBLUEでは過去に同社へ出資しており、投資背景についてはこちらの記事で紹介しています。

コルチゾールとは

コルチゾールは副腎から分泌されるホルモンです。一般的には「ストレスホルモン」として知られ、脅威に対する「闘争・逃走反応」をサポートしますが、それだけでなく、脳や筋肉へのエネルギー供給、抗炎症作用、血圧の調整など、生命維持に欠かせない多くの働きを持っています。

※グラフ内の青色部分は、一般集団における正常範囲を示す(Eli Health提供)

コルチゾールの分泌量は1日の中で変動し、朝にピークを迎えて活動のためのエネルギーをもたらし、夜にかけて低下することで深い睡眠を促します。このバランスが慢性的なストレスなどで崩れると、体重増加、疲労感、不眠などの不調を引き起こす可能性があります。

近年は、この日内リズムそのものを継続的に理解しようとする動きが、ウェルネス領域でも広がりつつあります。

米国で高まりつつある「コルチゾール」への関心

米国では、ウェアラブルや自宅検査などを通じて、消費者が自身の健康やウェルネスに投資するトレンドが顕著です。その中でも、ここ数年、ウェルネスやデジタルヘルス領域ではコルチゾールへの関心が徐々に高まっています。以前は主に医療や研究の文脈で語られることが多かったホルモンですが、現在では一般消費者の健康管理の会話の中でも頻繁に登場するようになりました。

背景にあるのは、ストレスや睡眠の質、メンタルコンディションといった「日常的な不調」を、より客観的に理解したいというニーズの拡大です。特にパンデミック以降、米国ではメンタルヘルスや燃え尽き症候群への関心が継続的に高まっており、自分の身体状態をデータとして把握しようとする動きが広がっています。その中で、ストレス反応と関連づけて理解しやすい指標として、コルチゾールが注目されるようになりました。

同時に、在宅で生体データを測定することへの心理的ハードルも大きく下がりました。血糖値モニタリングや睡眠トラッキング、ウェアラブルデバイスの普及によって、「体の状態を日常的に測る」という行為自体が一般化しています。こうした流れの延長線上で、唾液などを用いたホルモン測定も、専門的な検査というよりセルフトラッキングの一部として受け入れられ始めています。

SNSやウェルネスコミュニティの影響もあり、ホルモンバランスやストレス管理に関する情報が広く共有されるようになりました。医学的理解が完全に追いついているとは言えないものの、「ホルモンの視点で体調を理解する」という考え方自体は確実に一般化しつつあります。

こうした背景の中で、コルチゾールは病気の診断指標というよりも、睡眠、回復、パフォーマンス、メンタル状態を理解するための一つの参考データとして扱われ始めています。

Eli Healthのコルチゾール検査概要

では実際に、どのような体験なのかを見ていきます。

Eli Healthの検査は、使い捨ての検査キットとスマートフォンだけで採取から結果確認まで完結し、生活習慣アドバイスまで提示される点が特徴です。

コルチゾール検査のステップ一覧

唾液を60秒ほど採取し、20分待つと結果がスマートフォンに表示されます。自宅ホルモン検査では専用機器が必要な場合も多いですが、Eli Healthでは専用リーダーや検体のラボ送付は不要です。結果は単なる数値ではなく、スコアや生活習慣への示唆とともに提示されます。

ビジネスモデルは使い捨て検査キットのサブスクリプション(いつでもキャンセル可能)。8本セットで$99、24本セットでは$225となっています。

今回は、2日間で計4回の検査を実施しました。

Eli Healthは今後、コルチゾールに加えてテストステロンやプロゲステロンなど、複数のホルモン検査の提供を2026年中に予定しています。単一ホルモンの測定にとどまらず、ホルモンバランス全体を継続的に把握するプラットフォームへと拡張していく構想です。

Step 1|オンボーディング:検査の目的を設定する

最初にアプリ上でアカウントを作成し、基本情報を入力します。年齢や性別、女性の場合は最新の生理周期の入力に加え、「なぜ測定したいのか」という目的を選択する設計になっています。

睡眠改善、ストレス管理、フィットネス最適化、メンタルヘルス、更年期など、選択肢は医療的というよりウェルネス寄りです。この製品の目的は診断ではなく、生活改善を前提に設計されていることが分かります。

Step 2|唾液採取とその日のコンディション記録

検査キットを口に入れ、約60秒間唾液を採取します。操作自体は非常にシンプルです。結果を待つ20分の間に、その日の体調をアプリへ記録します。気分、睡眠状態、頭痛などの体調、運動、カフェイン摂取、服用した薬やサプリなどを入力していきます。

このステップを通じて、ホルモン値を単独で見るのではなく、「その日の生活や体調」とセットで理解する設計になっています。

Step 3|検査結果をスマートフォンでスキャン

20分後、検査キットに表示された2本のラインをスマートフォンのカメラでスキャンします。ここで起床時間を入力するのも特徴的です。コルチゾールは時間帯によって意味が変わるため、単なる数値ではなく日内リズムとして解析されます。

Step 4|結果確認

結果画面では、コルチゾール値だけでなくスコアやグラフが表示されます。視覚的に分かりやすく、「正常/異常」というより現在の傾向を示すUIです。

結果1日目:朝・夜ともに、コルチゾール値は基準値よりも低めの結果

実際に測定してみると、同じ人でも結果は大きく変動しました。1日目は基準値より低めでしたが、約1週間後に再測定した2日目は高めと表示され、身体状態が日々変化していることを実感しました。

2日目の結果:朝・夜ともに、コルチゾール値は基準値よりも高い

Step 5|パーソナライズされた生活習慣アドバイス

結果に応じて、生活習慣のアドバイスが提示されます。内容は医療的な指示ではなく、日常行動の調整にフォーカスしています。

例えば、朝日を浴びることや夜のカフェイン制限、過度なトレーニングを避けることなど、体内リズムを整えるための提案が中心です。

1日目のアドバイスは、毎朝日光を浴びる、起床直後のスマートフォン使用を避ける、強度なトレーニングを避け軽めの運動を中心にするなど、体内時計の再構築に特化した内容でした。

測定1日目の検査後に表示されたアドバイス(表示された6つの中から3つ抜粋)

一方、2日目は朝夜ともに基準値を超える高い値だったため、「夜に下がらないコルチゾール」への対応に焦点を当てたアドバイスが提示されました。昼食後のカフェイン制限や夜のリラクゼーション、瞑想の導入などが推奨されていました。

測定2日目の検査後に表示されたアドバイス(表示された6つの中から3つ抜粋)

実際に使って感じたこと

まずは2日間、計4回の検査を試してみました。自覚的にはどちらの日も健康な状態でしたが、いずれも基準値を超える結果となりました。「基準値を超えている」と示されることで、少し瞑想を試してみようかな、といった行動変容につながりやすい点も印象的でした。

今回は短期間の検証でしたが、今後は1ヶ月ほど継続して試してみる予定です。生活習慣アドバイスを実行した後に数値がどのように変化するのかも含めて観察していきたいと思います。数値そのものよりも、自分の生活習慣と身体状態の関係を意識するきっかけになった点が、このプロダクトの最も興味深い部分でした。

一方で、現時点では体調や生活習慣の入力項目の多くが手動記入である点はやや手間に感じました。筆者自身はOura RingやApple Watchなどのウェアラブルデバイスを日常的に利用しているため、今後これらと連携し、睡眠や心拍数、活動量などのデータとホルモン変動を横断的に確認できるようになると、より立体的に自身のコンディションを理解でき、さらに興味深い体験になるのではないかと感じました。

今回のレビューではコルチゾールを中心に測定を行いましたが、Eli Healthは今後、コルチゾールに加えてテストステロンプロゲステロンなど、複数のホルモン検査の提供を2026年中に予定しています。これらが実装されることで、単一ホルモンの状態だけでなく、ホルモン同士の相互作用を含めた、より包括的な身体状態の理解が可能になると期待されます。

ストレス、睡眠、気分、エネルギーレベルといった日々のコンディションは複数のホルモンの影響を受けており、継続的な測定と可視化が実現すれば、ユーザー自身が生活習慣と身体の変化の関係性をより立体的に捉えられるようになるでしょう。

Eliが目指しているのは単なる検査ツールではなく、日常生活の中でホルモン状態を理解し、行動変容につなげる新しいヘルスケア体験であり、今後のプロダクト展開によってその価値はさらに広がっていくと感じました。

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