法制化とプロタイピングの概念:新デジタルサービス法(DVG)により、ドイツではデジタルヘルスケアアプリを法定保険制度に導入する準備を進めている
プロトタイピングというと、一般的には政策や規制よりも、製品やサービス、特にスタートアップやデジタル体験の速い世界では、「Build to think」「Rapid iteration」というコンセプトを連想する。しかし、政策プロトタイピングのコンセプトは、フィンランドの新しい社会福祉の2年にわたるパイロットテストから、ブロックチェーンベースのソリューションをテストするために設立された様々なフィンテックのサンドボックス(例:英国のFCA)まで、すでにいくつかの注目を集めている事例で見ることができる。日本でも、規制官庁の認証を受けた「実証」のための革新的なソリューションを支援する仕組み仕組みが設けられている。現在、モビリティからフィンテックまで、100社以上の企業がこのサンドボックスの枠組みの下で事業を展開している。
DVG — 医療のデジタル化を推進するドイツの新法
ドイツに来たばかりの頃初めて耳にしたのは、医療のエコシステムを破壊する「ある新しい法律」の話だった。それはどのような法律なのだろうか?ドイツのイェンス・シュパーン連邦共和国保健大臣の言葉を借りれば、デジタル・ヘルスケア法は…
…世界で初めて採用され、ドイツがその最先端を行くことにになるだろう。まず、デジタルヘルスアプリの乱立を止める。現在アプリは統制されていない。本当に付加価値があるのはどれか、どれが実際に患者にメリットをもたらしギミックに包まれているだけではないアプリなのか?我々が導入するのは、..付加価値が証明され法定健康保険で全て賄われるアプリである。我々は、これをどのように行うことができるか、示していく。これは未知の領域であり、初めてデジタルヘルスアプリがもたらす付加価値を測定するための基準を設定する必要がある — 2019年11月7日(筆者による翻訳と太字強調)¹
具体的には、DVGはデジタルアプリを、患者の使いやすさにフォーカスしたデジタル医療製品と定義しており、クラス1または2aに分類している。DVGは、実際により広範なデジタル化の目標にも取り組んでいるが、デジタルアプリに関してはシュパーン大臣が言及しているように、世界初の試みである。その結果、2020年夏から、7,200万人のドイツの被法定健康保険者が、医師による治療の一環としてデジタルアプリが利用「できる」だけでなく、法的にも利用「する権利」² が与えられることになる。アプリメーカーにとってこのインパクトは計り知れない。医師は、正式な治療の一環として患者にアプリを診療処方し、説明することが正式に許可されることになる。
アプリの使用例に関しては、オンライン診療のスケジューリングや、血糖値のモニタリング等、法制化の議論の中でいくつか挙げられている。³ これらのアプリは、医療上の有益性や構造的・手続き的有益性などの効果を示す必要がある。重要なのは、アプリの「メーカー」(例:スタートアップ)には、1年間の猶予期間が与えられており、その期間にヘルスケア効果を示す実世界のデータを収集することができる。ヘルスケアデータを持っていないメーカーでも、12ヶ月の猶予期間を申請して一時的に登録することができる。承認されたアプリ(提出後3ヶ月以内に審査)は、デジタルアプリレジストリへとファストトラックされる。
ー保健省内のシンクタンク「Health Innovation Hub(HIH)」によるまとめと発表はこちら
プロトタイピングと政策立案へ立ち返って考えると・・・
DVGは、これまでアナログだった部分をデジタル時代にトランスフォームしようとした新しいプロトコル(実施要綱)の導入にあたり、あらゆる面で新しいインセンティブメカニズムやインタラクションのプロトタイピング(試作)が溢れる。
- 患者や医療機関はどのようにして登録アプリが分かるのだろうか?
- 登録アプリを紹介するためのイベントやワークショップはあるのだろうか?
- 医療経済(HEOR)はどのように考慮されるのだろうか?
- 医師が処方し、患者がアプリをダウンロードして登録するという流れはどのように機能するのだろうか?
- …
DVGとその意味合いについて、この分野の専門家たちと議論する機会があり、議論によって得られたインサイトを共有したい。
イェンス・シュパーン氏のような若い政治家が「建設的な失敗」の思想を前提として迅速な法制化に取り組んでいる可能性
通常、曖昧さの中で失敗を許容するということは、政策立案者にとって好ましい状況ではない。しかし、イェンス・シュパーン氏は連邦議会への演で、完全な法律を通すというよりは、むしろ失敗を想定していると述べている
今ここで断言できるが、、最からすべを完にすることはできない。半年後には何かがうまくいっていないだろうから、批判されるかもしれない。しかし、ているかもしれない。いるかもしれない。。心配ばかりして、行動を起こさなければ、何も起こらない。」(筆者による翻訳)⁴
この考え方はいわゆるプロトタイピング的アプローチであり、最終的には、有意義でアクショナブルなフィードバックを得て、改善を繰り返すことにより、より良い結果がもたらされると考える。
Sticker made by Thryve with Jens Spahn as the savior bringing innovation
政策決定やDVGに関しては、現場におけるプロトタイピングからの学びというボトムアップ的なアプローチよりも、トップダウンアプローチが依然と推進力となっている。
プロトタイピングのゴールは、コスト及びリスクを可能な限り抑えた形で反復的にアイディアを開発/検証することである。一なアイディアの開発/検証プロセスは次の通り:目標/問題定義 ー 検証方法(方針)の設定 ー 仮説のブラッシュアップ(チーム内で合意に達する)ー実装(検証)ー評価(レビュー)。前述はアクショナブルなフィードバックを得るために反復的に行うことが求められるセスに変革をもたらすことになるだろうなるだろうしたとしてもその経験に基づきGが失敗したとしてもその経微調整されることを期待すると述べたが、現在の法整備プロセスはは、我々が慣れ親しんでいる伝統的モデルから脱却できておらず、。12ヶ月間の期間終了時の評価と政策決定の最初の行為をしかし、ィードバックループを完成させているわけではない。しかし、これは必ずしも悪いことではない。プロトタイピングの観点から政策立案を製品やサービスと同じように扱えるかどうかは議論の余地があるかもしれない。
またマー氏(ABATONのCEO)は、DVGの実際の案はまだトップダウンで行われていると指摘している。この法律の制定は、現実の世界での実験から得られた実用的な試行錯誤を基にしたというよりも、シュパーン大臣の政治的な抜け目のなさに起因していると言える。実際、グラハマー氏が:「イノベーションを起こしにくいシステム」の中で破壊的な法律を成立させるには、トップダウンのアプローチが唯一の方法かもしれないと述べている。また、これまで医療政策は、イロット病」で苦しんできた今までの医療政策の影響で、影響で、規模が拡大せず、市場の成熟度まで意味のある結果も得られない、パイロット・プロジェクトが永遠に継続されているという指摘だ。⁵
シュパーン大臣の下、連邦保健省内でデジタル化推進派のロビーグループのアイデアが生まれた。さらに、DVGが草案からわずか7ヶ月で可決されたのは、シュパーン大臣が連邦議会に新法を提出するスピードで従来のロビーグループを圧倒したからだとも言われている。ある記事では、シュパーンを「16ヶ月で16の法律を可決した勤勉な大臣」と呼んでいる。
政策の実施に関してはプロトタイピングの要素が盛り込まれているが、行政権限の拡大としては正しいのだろうか。
受け取ったフィードバックが次の法の策定に反映されるという完全なプロトタイプループは現在のところ存在には「迅速な法制化」の要素が含ま前述ののパイロットプログラムやサンドックプログラム、12及び猶ファストトラックシステムにより、審査を受ける前に実世界のデータを収集することが可能になっているかし限定的なパイロットとは異なり、DVGはドイツの7,200万人の被保であるすべに一斉提供することを可能としている。DVGは法律の実施を定義し、適応させ、変更する権限を保健省に与えている。
理想的なプロトタイピングのデザインと促進の観点から、執行行政に権限を与えることは現在のシステムの下でプロトタイピングサイクルの道を開く一つの方法である。これにより、迅速な再調査を実施するために必要な枠組みと、フィードバックに基づいた法の定義と実施を反復して行うことが可能になる。連邦医薬品医療機器研究所(BfArM)がこの件についてどのように権限を行使するのかを引き続き注視すると同時に、ますます議論が白熱してきている米国の出方を見るのも興味深い。
他国の事例に基づいて迅速に法律が施行された場合、微妙なニュアンスが引き継がれないまま施行されてしまうことが多い。この傾向は米国でもよく見られ、たとえば、証券取引委員会(SEC) や環境保護局(EPA)などの政府機関に法律の解釈や実施の責任が委ねられている。
上記のような状況を問題視せずに肯定する専門家たちは、複雑化する世界に対応するためには仕方がないと主張している。1984年の米国最高裁によるシェブロン判決(Chevron v Natural Resources Defense Counci 1984) は、制定法の解釈を行政機関に委ねることを要求した。コロンビア大学法学部教授で憲法学者のフィリップ・ハンバーガー氏などの評論家は、選挙で選ばれたわけでもない官僚が自分たちの法律を書き、解釈し、執行することになるので、これは違憲だと主張している。ハンバーガー氏によれば、
「行政権力はオフロード走行のようなものだ。自分が運転席にいるときにオフロードを操作するのは爽快だが、それ以外の人は怖い思いをする。」
政治的、司法的、財政的、そしてこの場合、「失敗から学ぶ」ことと潜在的な医療費のプロトタイピング(原型)が長期的にどこに向かうかは未だ不明である。
人間中心設計の原則と方法論を導入することで、政策立案者の議論と政策解決につながる可能性がある
グラハマー氏は現在連邦保健省が設置した、DVGの施行(具体的には処方と償還のプロセス)について助言するための委員会の委員を務めている。委員会がどのようにブレストや議論を行っているのか、また、様々な制御集団や病院システム内で違った解決策を試すことを検討しているか、患者を理解するために共感することを行っているのか、スケッチをしているのか、ロールプレイをしているのか、創作をしているのか、と質問するとと、グラハマー氏はメモの交換やコメントの草稿という伝統的な方法で行っていると答えた。政策立案者間のコラボレーションや議論の方法さえも破壊しようという意欲が感じられる。「我々は新しい文化を作ることに肯定的だ。この法律は誰にとっても未経験の分野であり、ほぼ新しい出発を意味している…が、それはまだ起きていない。」10年以上前のことではあるが、私が学生だった頃はポストイットや油性ペンなど使わなかったことをはっきりと覚えている。
DVGの影響は、もしかするとドイツの国境を越えて、広範囲に及ぶ可能性もある。積極的関与と、多少のプロトタイピング技術の小規模使用は、この新法の意図しない効果を事前に表面化できるかもしれない。Cara Careというデジタルヘルスのスタートアップで働く友人Toniaによると、デジタルアプリメーカーはDVGに合わせてプロセスを調整しているという。この法律がスタートアップの迅速な製品開発の特性を変える可能性もある。
本来DVGは複雑さの一部を軽減するよう設計されているが、Toniaはこの法律は「患者にケアを提供するための新しい価値のあるモデルであるが、それに付随して新たな複雑さを生み出している」と指摘している。
彼女はこの法律が製品開発プロセスに与える(おそらく意図しない)影響をいくつか共有してくれた。「アプリへの大きな変更(新機能やコンテンツなど)は、重要な変更として承認される必要があるため、認証のために提出するバージョンはかなり最終的なものにする必要がある。これは俊敏さよりもむしろ、ウォーターフォール型の開発モデルに移行したことを意味し、市場からのフィードバックを受けて複数のバージョンを反復するのではなく、時間内に提出できるアプリのベストバージョンを作成しようとしている。」複数の市場で事業を展開するアプリは、ドイツとその他の世界の間の製品ロードマップの複雑さを調整しなければならない。
DVGは、ドイツがデジタルヘルスの最前線に躍り出るための重要な一歩となる
DVGはアプリの処方という画期的な特徴に注目が集まっているが、その影響範囲は更に広い。実際には、ドイツの医療体系全体のデジタル化を推進するための概要を示している。例えば、医療関係者に対して、デジタルトランスフォメーションに関する明確なマイルストーン(例:2020年9月までに薬局、2021年1月までに病院)を設定し、当該期限内での実施を拒否したり守らなかった場合には罰金を課すことを推奨している。
ドイツは世界第2位の医療費を計上しているため、この法律の潜在的な影響は計り知れない。2018年に実施されたベルテルスマンの調査で、「デジタルの面で最も革新的なヘルスケア・エコシステム」ランキングでドイツは下から2番目となっている。DVGはドイツのデジタル化を加速する起爆剤となり2025年までに最前線を行く可能性がある(実際2018年の調査で最下位のポーランドは去年3,700万件のe-処方箋が報告されていることから、現時点ではドイツを上回っているであろう。) ⁶
コロナの流行は、おそらく治療を補完し、プロセスを改善するためのデジタルソリューションの可能性にスポットライトを当てただけでなく、世界的にデジタル採用を加速させたであろう。世界がこのドイツの最新の試みを見ており、そこから学ぶことを望んでいることはシュパーン大臣が示唆する通りである。
大変な状況は続きますが、ご自愛ください。
ヴィンス
FN
1: https://www.bundesgesundheitsministerium.de/presse/reden/dvg-23-lesung.html
“Wir beschließen heute hier eine Weltneuheit. Da ist Deutschland ganz vorne. Wir werden das erste Land auf der Welt sein, dass das Klein-, — nicht das Klein-Klein -, das Wildwest, das klein-klein Wildwest — dass das Wild-West bei den Apps von heute beendet. Die Wahrheit ist doch, dass es heute überhaupt keine Orientierung gibt. Die Apps sind alle da, die kann jeder downloaden, die kann sich jeder herunterladen. Keiner sortiert mal: Welche App im Gesundheitswesen hat tatsächlich einen Mehrwert? Wo ist nicht nur schönes Marketing, nicht nur Gimmick, sondern wo ist ein tatsächlicher Nutzen für den Patienten in der Versorgung? Das führen wir zuerst ein.
Der zweite Schritt: Wir werden das erste Land auf der Welt sein, in dem die gesetzlichen Kassen das Ganze finanzieren, wenn es einen Mehrwert gibt. Wir zeigen damit für viele, viele andere, wie man es machen kann. Und ja, das ist auch ein Stück Neuland. Ja, wir werden zum ersten Mal Maßstäbe festlegen müssen, wie man einen solchen Mehrwert, einen Zusatznutzen von digitalen Gesundheitsanwendungen misst.”
2: https://www.sozialgesetzbuch-sgb.de/sgbv/33a.html
“Anspruch” in §33a SGB V
3. https://perma.cc/CLP7-3BC6
“Mit dem Gesetz soll es Patienten künftig möglich sein, Gesundheits-Apps auf Rezept zu erhalten, Online-Sprechstunden einfach zu nutzen und überall bei Behandlungen auf das sichere Datennetz im Gesundheitswesen zuzugreifen. Schon heute nutzten viele Patienten Apps, die sie etwa dabei unterstützten, ihre Arzneimittel regelmäßig einzunehmen oder ihre Blutzuckerwerte zu dokumentieren, heißt es in dem Entwurf. Künftig sollen sie sich nach dem Willen der Bundesregierung aber solche Apps von ihrem Arzt verschreiben lassen können.”
4: https://www.bundesgesundheitsministerium.de/presse/reden/dvg-23-lesung.html
“Und ja, es wird beim ersten Mal auch nicht alles perfekt sein — das sage ich Ihnen jetzt schon: Sie können Ihre Rede in sechs Monaten noch mal halten, weil irgendetwas schiefgegangen sein wird -, aber vielleicht sollten wir endlich mal anfangen, auch digitale Innovationen möglich zu machen. Wenn wir nur Bedenken haben, aber nie was möglich machen, dann passiert nichts.”
5. Strategy& “Weiterentwicklung der eHealth-Strategie: Studie im Auftrag des Bundesministeriums für Gesundheit
FN 21, pg 46: Pilotitis“ bedeutet in diesem Kontext das permanente Initiieren von Pilotprojekten (in der Regel in Förderprojekten), ohne das die in diesen Projekten erzeugten Piloten je zur Marktreife bzw. in die Regelversorgung gelangen. Die Folgen sind u. a. ein Mangel an aussagekräftigen Studienergebnissen durch viele kleine Anwendungen mit kleinen Studienpopulationen und geringer stat. Aussagekraft (Abbott 2013).
6. https://www.aerzteblatt.de/nachrichten/109698/E-Rezept-entwickelt-sich-in-Polen-zum-Erfolg